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偏微分

熱力学では状態関数の偏微分を頻繁に用いる.圧力や体積,エネルギー 等の状態量そのものよりも,これらの変化分に注意を向けることが多いためであ る.微小な変化分は,状態関数の微分係数により与えられる.そのため, 微分量の満たす関係式や,微分係数から状態関数自身を求める積分法に関する知 識が必要となってくる. 以下では,熱力学の議論に必要な数学について,まとめて説明する.目的は偏微 分計算に慣れることと,後で用いる公式を導出することである. 例えば${ V}(T,p)$のように,変数が2つ以上になると, 1変数関数$f(x)$にはない新しい要素が微積分法にもちこまれる.

熱力学的な状態関数 を念頭におきつつも, 以下では話を具体化せずに, 一般的な2変数関数${ z}(x,y)$について考える. 変数が$x$$y$の2種類あるため, 2つの微分係数が考えられる. まず 変数$y$を一定に保ちながら $x$を変化させるときの微分を

\begin{displaymath}
\lim_{\Delta x\rightarrow 0} \frac{{ z}(x+\Delta x,y)-{ z}(...
...}{\Delta x}
=
\left(\frac{\partial { z}}{\partial x}
\right)_y
\end{displaymath} (3.1)

と表現する. 右辺の下付きの添字は, 変数$y$が一定に保たれることを示す. (3.1)自身,$x$$y$の関数であるから, 省略形を用いずに

\begin{displaymath}
\frac{\partial { z}(x,y)}{\partial x}
\end{displaymath}

と書く方が正確である. 以上のように,複数の変数のうちの 1つに関する部分的な微分を 偏微分という. 微分ではあっても, 他の変数が一定に保たれることを忘れないためにも, 微分記号${\rm d}$ではなく,わざわざ新しい記号$\partial$を用いる. (3.1)を 関数${ z}(x,y)$$x$に関する 偏微分係数という. 関数とみなし, 偏導関数ともよばれる. 同じように,$y$に関する偏微分係数
\begin{displaymath}
\lim_{\Delta y\rightarrow 0} \frac{{ z}(x,y+\Delta y)-{ z}(x,y)}{\Delta y}
=\left(\frac{\partial { z}}{\partial y}
\right)_x
\end{displaymath} (3.2)

が定義される.

$(x,y)$の付近で関数$z(x,y)$がどう変化するかは, 2つの偏微分係数によって特徴づけられる. 変数$x$$\Delta x$$y$$\Delta y$だけ変化するときの $z$の変化分を$\Delta z$とする.

\begin{displaymath}
\Delta { z}={ z}(x+\Delta x,y+\Delta y)-{ z}(x,y).
\end{displaymath} (3.3)

これを次のように変形する.
$\displaystyle \Delta { z}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{{ z}(x+\Delta x,y+\Delta y)-
{ z}(x,y+\Delta y)}{\Delta x}\Delta x$  
    $\displaystyle +
\frac{{ z}(x,y+\Delta y)-
{ z}(x,y)}{\Delta y}\Delta y.$ (3.4)

極限 $\Delta x\rightarrow 0$, $\Delta y\rightarrow 0$をとると, 重要な微分公式
$\displaystyle \fbox {\(
\displaystyle
{\rm d}{ z}=
\left(
\frac{\partial { z}}{...
...ht)_y
{\rm d}x
+
\left(
\frac{\partial { z}}{\partial y}
\right)_x
{\rm d}y
\)}$     (3.5)

が得られる. これにより,独立変数の微小変化分${\rm d}x$${\rm d}y$に応じた 従属変数の変化分${\rm d}z$が求まる. 2つの独立変数は同時に変化してもかまわない. 関数値$z$$x$$y$の関数として図示すると(図3.1参照), (3.1)は$x$-軸方向への勾配であり, (3.2)は$y$-軸方向への勾配という幾何学的な意味をもつ.

関数${ z}(x,y)$により, 独立変数$x$$y$から 従属変数$z={ z}(x,y)$が決まる. このことを,$y$$z$を決めれば$x$は決まる, とみなすこともできる. この考えでは,$y$$z$が独立変数に,$x$は従属変数になる. 数学的には,関係式$z=z(x,y)$と全く同じ内容が, 別の関数$x(y,z)$によって$x={ x}(y,z)$と表現できる. 公式(3.5)により, 関数${ x}(y,z)$に対しては

\begin{displaymath}
{\rm d}{x}=
\left(
\frac{\partial { x}}{\partial y}
\right)_...
...
+
\left(
\frac{\partial { x}}{\partial z}
\right)_y
{\rm d}z,
\end{displaymath} (3.6)

が成り立つ. (3.5)と(3.6) に${\rm d}y=0$を代入すると, それぞれから,
\begin{displaymath}
{\rm d}{ z}=
\left(
\frac{\partial { z}}{\partial x}
\right)...
...rtial { x}}{\partial z}
\right)_y
{\rm d}z,
\quad ({\rm d}y=0)
\end{displaymath} (3.7)

が得られる. 2式は互いに等価であるから, ${\rm d}z/{\rm d}x$を比較し, 偏微分係数の間には関係式
$\displaystyle \fbox {
\(
\displaystyle
\left(
\frac{\partial { z}}{\partial x}
\right)_y
\left(
\frac{\partial { x}}{\partial z}
\right)_y=1
\)}$     (3.8)

が成り立つことがわかる.つまり, 1個の独立変数$y$を一定に保つとき, 残る$x$$z$の間の関係( $x\Leftrightarrow z$)については, 通常の微分の場合 $({\rm d}z/{\rm d}x=({\rm d}x/{\rm d}z)^{-1}$)と同様に, 関係式

\begin{displaymath}
\left(
\frac{\partial { z}}{\partial x}
\right)_y
=
\left(
\frac{\partial {x}}{\partial z}
\right)_y^{-1}
\end{displaymath}

が成り立つ.

一方,(3.5)と(3.6)に対して ${\rm d}z=0$とおくと,

\begin{displaymath}
{\rm d}{ y}=
\left(
\frac{\partial { y}}{\partial x}
\right...
...ial { z}}{\partial y}
\right)_x
{\rm d}y=0,
\quad ({\rm d}z=0)
\end{displaymath} (3.9)

が得られるが,両式から ${\rm d}y/{\rm d}x$を消去すると,関係式
$\displaystyle \fbox {
\(\displaystyle
\left(
\frac{\partial { z}}{\partial x}
\...
...}}{\partial y}
\right)_x
\left(\frac{\partial { y}}{\partial x}
\right)_z
=0\)}$     (3.10)

が結論される.この例では,固定される変数はすべて異なる. (3.8)を用いると, オイラーの連鎖式

\begin{displaymath}
\left(
\frac{\partial { x}}{\partial y}
\right)_z
\left(
\fr...
...\right)_y
\left(\frac{\partial { y}}{\partial z}
\right)_x
=-1
\end{displaymath}

が得られる.




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OKABE Takuya 平成14年1月9日