next up previous contents index
: 熱力学的安定性 : 内部エネルギー : 例:理想気体と固体のモル比熱   目次   索引


熱伝導

温度の異なる物体を接触させると,熱の移動が生じる. 正確には,移動するのはエネルギーであるが, 巨視的には 熱伝導としてとらえる. 熱の伝えやすさを表す物理量が 熱伝導率である.


表 5.5: 物質の熱伝導率(常圧)
 
物質
温度 [$^\circ $C] \(\begin{array}{c}熱伝導率 \kappa \\
{ [\mbox{W$\cdot$m$^{-1}\cdot$K$^{-1}$}] }
\end{array}\)  
  常温 0.06  
  コンクリート 常温 1  
  20 0.3  
  ポリエチレン 常温 0.25-0.34  
  木材(乾) 18-25 0.14-0.18  
  黄銅(真鍮) 0 106  
  空気 0 2.41 $\times 10^{-2}$  
  0 0.561  
  0 2.2  
 
 
熱伝導率$\kappa$とは,厚さ$a=1$mの物質で隔てられた面積$A=1$m$^2$の2つの 面に1Kの温度差があるとき,$\Delta t=1$秒間に流れる 熱量$\Delta Q$ [J]を表す. ${\rm [W]({\bf ワット})=[J/s]}$は仕事率の単位である.

温度 $T_{\tiny\mbox{高}}$の高温物体と 温度 $T_{\tiny\mbox{低}}(<T_{\tiny\mbox{高}})$の低温物体が, ある物質を隔てて接触しているとする. ここで注目したいのは,中間にはさまれた物質についてである. 物質の厚さ$a$が厚いほど熱移動の速さは遅くなるだろう. また,物質の接触面積$A$が大きいほど熱伝導は速くなるだろう. 高温部から低温部へと流れる熱エネルギーを$\Delta J_Q$とすると, 保存則により$\Delta J_Q$は高温物体が失う熱量 $-\Delta Q_{\tiny\mbox{高}}$ であり,また低温物体が得る熱量 $\Delta Q_{\tiny\mbox{低}}$に等しい. 経験によると, 面を垂直に通過する熱の 流量$\Delta J_Q$は,温度勾配 $(T_{\tiny\mbox{高}}-
T_{\tiny\mbox{低}})/a$と接触面積$A$,そして経過時間$\Delta t$に比例する. つまり,式で表現すると,

\begin{displaymath}
\Delta Q_{\tiny\mbox{低}}
=-\Delta Q_{\tiny\mbox{高}}=
\kappa \frac{T_{\tiny\mbox{高}}-T_{\tiny\mbox{低}}}{a}A \Delta t
\end{displaymath}

が成り立つ. この経験則は フーリエの法則とよばれる. ここで定義される比例係数$\kappa$ 熱伝導率であり, 物質固有の物理量である. 表 5.5に 様々な物質の熱伝導率$\kappa$を示す. 熱容量と熱伝導率の区別には注意を要する. 単純にいうと, 熱容量は蓄えられる熱の 容量を表す. これに対して,熱伝導率は熱を伝える 速さを特徴づける. 熱平衡状態では,すべての物質は等しい温度をもつが, 触れてみると温度が異なるように感じることがある. 皮膚で感じる熱さや冷たさの感覚は, 熱伝導率に強く影響される. 熱の移動速度が速い方が より強く感覚に訴えるためである. 表によると,水や砂に比べ,紙や空気は, 数倍から10倍程度 熱を伝えにくいことがわかる. 金属は自由な伝導電子をもつため, 熱をよく伝える.

図: 面積$A$で互いに接触し, 幅$a$をもつ3つの隣接する直方体を考える. 熱は温度差を減らす向きに流れる.
\begin{figure}
\centerline { \epsfile{file=themcond,height=3.8cm}} \end{figure}

物質中の不均一な温度差は, どのようにして一様になるのであろうか. 物質内部における 局所的な温度の時間変化を考えるために, 図 5.3に示すように, 同じ材質の直方体が3つ,一直線上に隣接している状況を想像する. 各直方体の幅を$a$,互いに接触している面の面積を$A$と書く. 左の直方体の温度を$T_{l-a}$,真中の温度を$T_l$,右を$T_{l+a}$とする. 温度が $T_{l-a}> T_l> T_{l+a}$を満たすとき, 熱は図の左から右へと流れる. フーリエの法則により,時間$\Delta t$の間に左から真中に入る熱量は $\kappa(T_{l-a}-T_{l})A \Delta t/a$, 右に流れていく熱量は $\kappa(T_l-T_{l+a})A \Delta t/a$となる. 差し引き,真中の直方体が受けとる熱エネルギーは
\begin{displaymath}
\Delta Q_l=
\kappa\frac{T_{l-a}-T_{l}}{a}{A\Delta t}
-\kappa
\frac{T_l-T_{l+a}}{a}
{A\Delta t}
\end{displaymath} (5.37)

となる. 熱量$\Delta Q_l$を受けとることで, 直方体の温度$T_l$は変化する. 変化分$\Delta T_l$は 直方体の熱容量に反比例する. 圧力を一定とみなし,体積当たりの比熱として (5.27)を用いる. 体積$A a$ を掛けると, 直方体の熱容量は $C_p=\rho c_p A a$と書ける. こうして関係式 \(
\Delta Q_l = C_p \Delta T_l
\) を用いて(5.37)を書き換えると,
\begin{displaymath}
\frac{\Delta T_l}{\Delta t}
=
\frac{\chi }{a}
\left(
\frac{T_{l+a}-T_{l}}{a}-
\frac{T_{l}-T_{l-a}}{a}
\right)
\end{displaymath} (5.38)

が得られる.ここで新たに 温度拡散率
$\displaystyle \fbox {\(
\displaystyle
\chi\equiv \frac{\kappa}{\rho c_p}
\)}$     (5.39)

を導入した.5.5

間隔$a$が小さい極限を考えると, (5.38)の 右辺の2項はともに 偏微分として表現できる. 熱エネルギーの流れる方向を$x$軸の正の向きとし, 温度を時間$t$と位置座標$x$の関数$T(x,t)$と考え, 次のように置き換える: \(
T_l\rightarrow T(l,t).
\) 右辺で$\chi/a$にかかる係数は 微分

\begin{displaymath}
\frac{T_{l}-T_{l-a}}{a}\rightarrow\frac{\partial T(l,t)}{\partial x}
\end{displaymath}

の変化分

\begin{displaymath}
\frac{1}{a}\left(
\frac{\partial T(l+a,t)}{\partial x}
-\fra...
...x}
\right)
\rightarrow
\frac{\partial^2 T(l,t)}{\partial x^2}
\end{displaymath}

になる. 左辺は時間に関する偏微分になるため, 連続極限 $a\rightarrow 0$ 熱伝導方程式
$\displaystyle \fbox {
\(
\displaystyle
\frac{\partial T(x,t)}{\partial t}
=
\chi \frac{\partial^2 T(x,t)}{\partial x^2}
\)}$     (5.40)

が得られる.これは フーリエの方程式 ともよばれる.

図: 場所による温度差はいずれ均一化される.
\begin{figure}
\centerline {\epsfile{file=thwave,width=6cm}}\end{figure}

熱伝導方程式は 不均一な温度の時間変化を理論的に考察する際の出発点となる. 重要な方程式だが, ここでは代表的な性質を確認するに留める. 簡単のため, 図 5.4に示すように, 温度が波のように変化する状態を考えよう. 最初の状態(時刻$t=0$)が,平均温度$T_0$のまわりで 振幅$\Delta T$ 波長$\lambda $ をもつ正弦波 $T(x,0) =T_0+\Delta T\sin(2\pi x/\lambda)$で表されるとする. 時間が経つにつれ, 温度差は最終的には一様に均されるだろう. 温度差がなくなるまでに, どの位の時間がかかるかを知りたい. 解の候補として, 初期振幅$\Delta T$を 時間の関数 $\Delta T{\rm e}^{-t/\tau}$で置き換えた関数
\begin{displaymath}
T(x,t) =T_0+\Delta T{\rm e}^{-t/\tau} \sin(2\pi x/\lambda)
\end{displaymath} (5.41)

を熱伝導方程式に代入すると, 条件
\begin{displaymath}
\tau=\frac{\lambda^2}{4\pi^2 \chi}
\end{displaymath} (5.42)

を満たすとき, (5.41)は解となることがわかる. 温度差の振幅 $\Delta T{\rm e}^{-t/\tau}$は指数関数的に減衰する. 緩和時間$\tau$は,不均一な温度勾配が一様になる 時間の目安を与える. (5.42)によると, $\tau$$\lambda $の2乗に比例して増大する. 実は,この性質は図 5.4の例に限ったことではない. 定数 $\tau\chi/\lambda^2$ の値(上の場合は$(4\pi^2)^{-1}$) は温度変化の空間的なパターンに依存しうるが, 温度の不均一さの幅$\lambda $が10倍になると 緩和時間は100倍になるという結論は, 熱伝導方程式(5.40)の特徴として, 方程式を解かずに理解できる性質である. 要するに,なだらかな温度差ほど,ならすのに時間 がかかるということである. 一般的にいうと,巨視的な系では, 力学平衡に比べて熱的平衡の実現には時間がかかる.


表 5.6: 物質の密度と温度拡散率
 
物質
\(\begin{array}{c}密度  {\rm [10^3 kg\cdot m^{-3}]}\end{array}\) \(\begin{array}{c} \chi=\kappa/\rho c_p  {\rm 10^{-7} [m^2/s]}\end{array}\)    
  0.7-1.1 $0.4\sim 0.7$    
  コンクリート 2.4 $5\sim $    
  1.4-1.7 $2\sim $    
  ポリエチレン 0.92-0.97 $1.4 \sim$    
  木材(乾) \(\begin{array}{c} 1.1\mbox{-}1.3 (こくたん) 0.49 (ひのき)\end{array}\) $ 1\sim $    
  黄銅(真鍮) 8.6 318    
  空気 0.00129 186    
  1.00 1.33    
  0.917 12.2    
 
   

表 5.6に物質の密度と温度拡散率$\chi$を示す. 後者は (5.39)に密度$\rho $, 熱伝導率$\kappa$,そして 表 5.1の比熱を代入して求めたものである. $\rho $$\kappa$の物質依存性が大きいのに比較し, 金属や気体など,よい熱伝導体を例外として, $\chi$はすべてほぼ同程度の値をとる. 例えば,木材や土,水の $\chi \simeq 1
\times 10^{-7} [{\rm m^2/s}]$に対して,

\begin{displaymath}
\frac{1}{4\pi^2\chi}
\simeq 25 [{\rm s/cm^2}]
\end{displaymath}

となる. (5.42)によると, $\lambda=1 {\rm cm}$に対して$\tau\simeq 25$秒となる. $\lambda\sim $数mに対し$\tau$は数日の程度に, 数kmに対しては, 緩和時間は数千年から1万年の程度になる. これは地球規模の熱現象が, 人間的な時間の尺度からみて, 極めて緩慢なことを意味する.

熱伝導方程式を空気や水などの 流体に応用する際には注意を要する. 熱伝導では エネルギーの移動は考えるが,物質の移動は考えない.ところが, 重力場中における実際の流体では,温度 差にともない密度が変化し, 浮力の効果により 対流発生する場合がある. 対流とはかき混ぜであり, 温度を均一化する機構としては極めて有効だが, 詳細に関する具体的な考察には,流体力学の手法が必要になってくる. 熱エネルギーの移動機構としては, 熱伝導 対流のほかに,電磁波の 放射が挙げられる(15.10参照).


next up previous contents index
: 熱力学的安定性 : 内部エネルギー : 例:理想気体と固体のモル比熱   目次   索引
OKABE Takuya 平成14年1月9日